日本の遺言とハワイでの遺言(ジョイント口座)どちらが優先する?
年に数回ハワイに滞在して友人たちと毎晩のようにたわいもない話をしていると、「日本で離婚したのち再婚相手とハワイで暮らす」というスタイルが意外に多いことに気づきます。また移住系の超ベテラン弁護士とハッピーアワーで飲んでいた時に「昔はワケありのヤ〇ザ関係の移住(日本からの脱出)の手伝いが多かったなあ」と懐かしがっていました。いずれにせよ移住は人生の再スタートですのでハワイはワケありの人たちにとっても(もちろん大多数のフツーの人も)絶好の環境といえます。
ハワイに移住やプチ滞在する場合、ハワイの銀行に口座を開設し現地での生活は銀行デビットカードで済ますという人が多いと思います。この場合、その預金口座もハワイでプロベート(相続手続き)の対象となります。と同時に日本での相続税の対象にもなります。
このプロベート回避の点から、口座開設時に銀行からジョイントアカウント(共有名義)を勧められます。日本ではジョイント名義の預金がないため、相続税の申告の時には預金の出し入れの動きから夫に帰属する残高と妻に帰属する残高を割り出して計算することになります。ジョイント口座に夫がポンとお金を入金した時に夫から妻へ贈与があったとして課税されるわけではありません。(不動産におけるジョイントテナンシーと扱いが異なります)
10年ほど前、ハワイの預金について「日本で書いた遺言とハワイでのジョイント口座」とどちらが有効かで争われた(日本の)裁判がありました。
公正証書遺言では「金融資産のうち10分の6は前妻の子へ、10分の4は後妻へ」と書かれており、財産目録にはそのハワイの預金は記載されていませんでした。ハワイの銀行の存在を知らなかった子供はそれを除外した相続申告を行ったところ税務調査が入り、父名義のハワイ口座があることが発覚しました(税務署は把握していました)。修正申告をするときにその10分の6が息子分として主張したら「その口座は後妻とのジョイント口座であるためすべて後妻のもの」という判決が出たという内容です。(2014.11.20東京高裁)
ジョイント口座は「私が死んだら私の持ち分を妻へ」という死因贈与とは異なります。どちらかというと「私が死んだら私の持ち分を消滅させてください」というものではありますが、いずれにせよ契約により自動的に相手方に財産が移転するものです。そのため相続の客体とはなり得ず、私法上の相続財産に該当しないという判断です。日本では「死亡保険金」などがこれにあたり「みなし相続財産」として相続税の対象になります。
文責:税理士 内藤 克